前回はツィーターの正相・逆相について、クロスオーバーのスロープによる位相回転と、スピーカーの極性を組み合わせて考えてみました。今回はその続編です。今回は、ミッドレンジとミッドバス。使っているのは、ミッドレンジがLFR52、ミッドバスがTS-C1730SIIです。「この2つ、1250 Hzでクロスさせているけど、正相・逆相はどっちがいいんだろう?」ここから、位相を計算しつつ、実際に車内でも測って試してみました。
結論から言うと、最終的には、
LFR52:逆相・1250 Hz・−12 dB/oct.
TS-C1730SII:正相・1250 Hz・−12 dB/oct.
という設定にしました。今回は、そこにたどり着くまでの話です。
まずは現在の構成
ミッドレンジのLFR52は、
- チャンネル:HIGH
- 極性:逆相
- DSP HPF:1250 Hz
ミッドバスのTS-C1730SIIは、
- チャンネル:MID
- 極性:正相
- DSP LPF:1250 Hz
という構成です。LFR52とTS-C1730SIIのクロス周波数は1250 Hz。左右のスピーカーまでの距離差はタイムアライメントで合わせているので、今回は距離差による位相差は考えません。見るのは、フィルターの位相回転と正相・逆相です。
まずは位相をざっくり計算してみる
今回の計算は、前回と同じくシンプルに考えます。
−6 dB/oct. は 45°
−12 dB/oct. は 90°
−18 dB/oct. は 135°
−24 dB/oct. は 180°
逆相は 180°
というルールです。
つまり、−6 dB/oct.を基準にして、6 dB/oct.増えるごとに45°回転すると考えます。もちろん、これはあくまで今回の比較用の簡易計算です。実際のDSPフィルターでは、フィルターの種類や実装によって位相特性は変わります。とはいえ、設定を比較するには分かりやすいので、まずはこの方法で考えてみます。
最初に試したのは−6 dB/oct. × −18 dB/oct.
最初に考えたのが、
LFR52:HPF 1250 Hz / −6 dB/oct. / 逆相
TS-C1730SII:LPF 1250 Hz / −18 dB/oct. / 正相
という組み合わせです。
LFR52は、−6 dB/oct. は 45°、逆相は 180°なので、
45° + 180° = 225°
225° − 360° = −135°
となります。
TS-C1730SIIは、−18 dB/oct. は 135°、LPFなので −135°です。
ということは、
−135° −(−135°)= 0°
となります。
1250 Hzでは位相差0°。計算だけ見ると、かなり良さそうです。「これならいけるんじゃない?」と思って、実際に測ってみました。
ところが800 Hz付近が大きく落ちた
実際にスマートフォンで1/3オクターブ測定をしてみると、1250 Hz付近はそれほど悪くありません。ところが、800 Hz付近がガクッと落ちています。1250 Hzの一点だけを見ると位相は合っています。でも、実際には1250 Hzを境にスパッと音が切り替わるわけではありません。LFR52も1250 Hzより下まで鳴っていますし、TS-C1730SIIも1250 Hzより上まで鳴っています。つまり、クロス付近では周波数が変わるにつれて、2本のスピーカーの位相関係も変わっていきます。「1250 Hzで0°だからOK」と単純にはいかないわけです。今回の測定では、その結果として800 Hz付近にディップが出ました。

TS-C1730SIIを−24 dB/oct.に戻してみる
次に、TS-C1730SIIのLPFを−18 dB/oct.から−24 dB/oct.に変更しました。すると、800 Hz付近のディップが少し改善しました。1250 Hzで計算すると、
LFR52:45° + 180° = 225°
TS-C1730SII:−24 dB/oct. は −180°なので、
225° −(−180°)= 405°
405° − 360° = 45°
となります。今度は1250 Hzで45°の差です。それでも実測では、−18 dB/oct.より若干良くなりました。ここで、「じゃあ、位相差0°が必ず一番いいわけじゃないのか?」という疑問が出てきます。そうなると、もう一つ試してみたくなります。
一番ポピュラーな−12 dB/oct. × −12 dB/oct.を試す
そこで試したのが、
LFR52:HPF 1250 Hz / −12 dB/oct. / 逆相
TS-C1730SII:LPF 1250 Hz / −12 dB/oct. / 正相
です。
計算は簡単です。LFR52は、−12 dB/oct. は 90°逆相なので、
90° + 180° = 270°
270° − 360° = −90°
です。
TS-C1730SIIは、−12 dB/oct. は −90°なので、
−90° −(−90°)= 0°
となります。
1250 Hzでは、こちらも計算上は位相差0°です。そして、実際に測ってみました。
800 Hz付近が大幅に改善
結果は、800 Hz付近の落ち込みが大幅に改善しました。今回試した中では、明らかにこの設定が一番素直につながっています。「計算上0°だから」というだけではなく、実際に測ってみても結果が良かった。ここは今回の検証でかなり重要なところです。

3パターンを比較すると
| LFR52 HPF | TS-C1730SII LPF | 1250 Hzでの簡易計算 | 実測結果 |
|---|---|---|---|
| −6 dB/oct. | −18 dB/oct. | 0° | 800 Hz付近に大きなディップ |
| −6 dB/oct. | −24 dB/oct. | 45° | ディップが若干改善 |
| −12 dB/oct. | −12 dB/oct. | 0° | ディップが大幅に改善 |
こうして並べてみると、かなり分かりやすいですね。ただし、今回の測定はスマートフォンによる1/3オクターブ測定です。車内反射や測定位置などの影響もあるので、これだけで「音響的な位相差を正確に測定した」とまでは言えません。それでも、同じ車両、同じ測定条件でフィルターだけを変更して比較しているので、今回のセッティングを決める材料としては十分使えます。
最終設定
今回の比較結果から、ミッドレンジとミッドバスはこの設定でいくことにしました。
ミッドレンジ:LFR52
- チャンネル:HIGH
- 極性:逆相
- DSP HPF:1250 Hz / −12 dB/oct.
ミッドバス:TS-C1730SII
- チャンネル:MID
- 極性:正相
- DSP LPF:1250 Hz / −12 dB/oct.
まとめ
今回、最初は「1250 Hzで位相が合えば、それが一番いいんじゃないか」と考えていました。実際、−6 dB/oct.のLFR52と−18 dB/oct.のTS-C1730SIIは、今回の簡易計算では1250 Hzで位相差0°になります。ところが、実車で測ってみると800 Hz付近に大きなディップが出ました。そこから−24 dB/oct.を試し、最後に−12 dB/oct. × −12 dB/oct.を試したところ、800 Hz付近が大幅に改善。今回の結果を見る限り、クロス周波数の一点で位相を合わせるだけではなく、クロス周辺の帯域全体で実際にどうつながっているかを見ることが重要だと分かりました。
計算である程度予測して、実際に測って、設定を変えて、また測る。今回はこの繰り返しで、
LFR52:逆相・1250 Hz HPF・−12 dB/oct.
TS-C1730SII:正相・1250 Hz LPF・−12 dB/oct.
という設定に決めました。やっぱりカーオーディオは、計算だけでも測定だけでもなく、計算して、実際に測ってみることが大切ですね。
※ 前回の記事も読んでみてください。

※ 今回のスピーカーはこちらです。
