カーオーディオの調整をしていると、多くの人が一度は悩むのが「定位」です。タイムアライメントを実測値どおりに設定すれば、ボーカルがセンターに定位する。私も最初はそう考えていました。ところが実際には、思っていたほど簡単ではありませんでした。実測値で設定すると音像は運転席の正面にきます。しかし、自分の好みとしては、ボーカルがほんの少し左寄り、ダッシュボード中央付近に自然に浮かんでほしい。そこでタイムアライメントを少しずつ動かして調整を始めました。ほんの少しでは変化が足りない。さらに動かすと今度は左へ行き過ぎる。戻すとまた右へ寄る。何度も調整と試聴を繰り返しましたが、どうしても「ここだ」と思えるポイントが見つかりませんでした。しかし、ある考え方にたどり着いてから、長い間悩んでいた定位が驚くほど自然になりました。その方法は、タイムアライメントではなく、右ツィーターの音量を少し下げることでした。
タイムアライメントだけでは定位は決まらない
タイムアライメントは、左右のスピーカーから出た音が同時に耳へ届くように補正する機能です。そのため、多くのDSPメーカーでも「まずは実測値を入力してください」と案内しています。もちろん、これは間違っていません。実測値を基準にすることで、左右の到達時間が揃い、定位の基礎ができます。しかし実際の車内では、それだけでは説明できない現象が起こります。私の場合も、実測値では確かに音像は正面へ定位しました。ところが、少し右へ引っ張られるような印象が残ります。そこでタイムアライメントを調整して音像を左へ寄せようとすると、今度は不自然な位置まで移動してしまう。あと少しだけ動かしたいのに、その「あと少し」が非常に難しいのです。
左右の距離だけでは音場は決まらない
調整を繰り返すうちに、一つ気付いたことがありました。タイムアライメントは「距離」は補正できますが、「空間」は補正できません。車内を見渡すと、左右は決して同じ環境ではありません。助手席側には比較的広い空間があります。一方で運転席側にはドア、窓ガラス、Aピラーなどが近く、音の反射条件がまったく異なります。耳へ届く音は、直接音だけではありません。ドアやガラスで反射した音も同時に届いています。つまり、左右の到達時間だけ合わせても、左右の音場そのものは揃わないということです。実際、タイムアライメントを何度調整しても納得できなかった理由は、この左右の音響空間の違いにあるのではないかと考えるようになりました。
左のほうが大きく聞こえる不思議な現象
調整中、もう一つ気になることがありました。左だけ右だけで音を比較すると、本来は距離が遠いはずの左側の音が大きく感じるのです。もちろん、実際に左だけ音量が大きいわけではありません。それでも耳には、左側のほうが豊かに鳴っているように感じます。最初は「気のせいだろう」と思っていました。しかし何度聴き直しても印象は変わりません。おそらくこれは、左右で反射の仕方が違うためです。音圧だけではなく、反射や広がり方まで含めて、人間は音場を判断しています。だからこそ、単純な距離補正だけでは理想の定位にならないのだと思います。
高音はタイムアライメントより音量が重要ではないか
以前、「低音は時間差に敏感で、高音は音量差に敏感」という話を聞いたことがあります。これが正しいとすれば、タイムアライメントの影響を受けやすいのはウーファーであり、ツィーターはレベル調整のほうが定位へ大きく影響することになります。そこで、自分のシステムを改めて見直してみました。右ツィーターは耳までの距離が近く、しかも耳に向かって理想的な角度で取り付けられています。右ウーファーは距離は近いものの、耳に対する角度はあまり良くありません。左側はツィーターもウーファーも距離は遠くなりますが、角度の条件は比較的良好です。こうして考えると、一番有利な条件にあるのは右ツィーターでした。高域は指向性が強く、人間が方向を判断する重要な情報でもあります。もしかすると、右ツィーターだけが定位を右へ引っ張っているのではないか。そう考えるようになりました。
右ツィーターだけ音量を下げてみた
そこで、タイムアライメントは実測値へ戻しました。そのうえで、右ツィーターだけレベルを少し下げてみました。結果は予想以上でした。ボーカルは自然に少し左へ移動し、私が理想としていたダッシュボード中央付近へ定位したのです。しかも、不自然さがありません。タイムアライメントだけで左へ寄せたときのような違和感もなく、音場全体が落ち着きました。右へ張り付くこともなく、左へ行き過ぎることもありません。今まで何時間もタイムアライメントを調整していたのが嘘のようでした。
タイムアライメントと音量調整は役割が違う
今回の経験で感じたのは、タイムアライメントとレベル調整は、それぞれ役割が違うということです。タイムアライメントは、スピーカーから耳までの到達時間を揃えるためのものです。一方、ツィーターのレベル調整は、高域の存在感や定位のバランスを整える役割があります。どちらか一方だけで完成するものではなく、それぞれを適切に組み合わせることが重要なのだと思います。私は以前、定位がおかしいと感じるたびにタイムアライメントばかり触っていました。しかし実際には、タイムアライメントは実測値のままにして、ツィーターのレベルをわずかに調整したほうが、ずっと自然な音場になりました。
同じ悩みを持つ人に試してほしいこと
もし、タイムアライメントを何度調整しても定位が決まらないなら、一度実測値へ戻してみることをおすすめします。その状態で、ツィーターのレベルだけを少し調整してみてください。特に右側の高域が強く感じる場合は、右ツィーターをほんの少し下げるだけで印象が大きく変わるかもしれません。もちろん、車種やスピーカーの取り付け位置、DSPの設定によって結果は変わります。しかし、タイムアライメントだけで解決しようとするより、新しい発見がある可能性は十分あります。
まとめ
カーオーディオの定位調整というと、タイムアライメントが最も重要だと考えがちです。もちろん、実測値を基準にしたタイムアライメントは非常に大切です。しかし、実際の車内では左右の空間や反射条件、ツィーターの指向性など、距離だけでは説明できない要素が数多く存在します。私の場合、何度タイムアライメントを調整しても納得できなかった定位は、右ツィーターの音量を少し下げるというシンプルな方法で解決しました。もし今、タイムアライメントの調整で行き詰まっているなら、「距離を合わせる」という視点だけでなく、「どのスピーカーが定位を支配しているのか」という視点でも、一度システムを見直してみてください。意外なところに、理想の音場へのヒントが隠れているかもしれません。
