「ドアスピーカーは音響的には最悪」って話、聞いたことはありませんか?自分もカーオーディオをいじり始めたころは、「ドアってスピーカーを付ける場所としては微妙だな」って思っていました。ホームオーディオならスピーカーを好きな場所に置いて、左右の距離や角度を揃えられます。ところが車はそうはいきません。スピーカーは左右のドア。運転席から見ると右は近いし、左は遠い。しかもスピーカーは足元に近い低い位置にあります。それなのに、今の車では当たり前のようにドアスピーカーが使われています。「じゃあ、なんでわざわざ音響的に不利な場所に付けるの?」今回は、自分なりにこの疑問を整理してみます。
昔のカーオーディオは10cmクラスが主流でした
昔の車では、ダッシュボードに10cmクラスのスピーカーを取り付けるのが珍しくありませんでした。リアのラゲッジトレイにスピーカーを置くスタイルもありましたね。この方法ならスピーカーを比較的高い位置に置けるので、音場を作るという意味では悪くありません。ただ、10cmクラスのスピーカーには大きな弱点があります。それが低音です。低い音をしっかり出そうと思うと、スピーカーにはたくさんの空気を動かしてもらう必要があります。振動板が小さい10cmクラスでは、どうしても限界があります。じゃあ、もっと大きなスピーカーを付けよう。そう考えると、今度は「どこに付ける?」という問題が出てきます。16〜17cmクラスのスピーカーをダッシュボードに埋め込むのは、さすがに大変です。そこで目を付けられたのがドアです。ドアなら大きな開口部を作りやすく、16〜17cmクラスのスピーカーを取り付けられます。しかも、スピーカーの背面にはドア内部の空間があります。こうして現在のカーオーディオでは、ドアに16〜17cmクラスのスピーカーを付けるスタイルがすっかり定番になりました。
ドアスピーカーには大きなメリットがあります
大口径スピーカーを使える
ドアスピーカーの一番分かりやすいメリットは、やっぱり大きなスピーカーを付けられることです。17cmクラスなら、10cmクラスよりも振動板の面積を大きくできます。同じ音圧を出す場合でも、大きな振動板なら無理に大きく動かさなくても済みます。特にベースやドラムなど、低域からミッドバスにかけての再生では、この差が効いてきます。10cmクラスでは出しにくい、あの「ドンッ」とくる感じですね。
スピーカーの前後を分けやすい
スピーカーは、振動板の前だけに音を出しているわけではありません。背面側にも音が出ています。この前後の音が混ざると、特に低域では互いに打ち消し合ってしまいます。ホームオーディオでは、これを防ぐためにスピーカーボックスを使います。ドアの場合は、インナーパネルやアウターパネル、サービスホールなどによって、スピーカーの背面側をある程度囲うことができます。もちろん、ドアがそのまま理想的なスピーカーボックスになるわけではありません。それでも、スピーカーを車内にむき出しで置くよりは、前後の音を分ける構造を作りやすいわけです。
スピーカーを固定する土台を作りやすい
ドアは面積が大きいので、スピーカーを固定する場所としても使いやすいです。ただし、ここにはカーオーディオならではの問題があります。スピーカーを取り付けただけでは、ドアの鉄板や内装まで一緒に振動してしまうことがあります。そこで登場するのがインナーバッフルやデッドニングです。スピーカー周辺の剛性を高めて、不要な振動を抑える。ドアスピーカーを交換したら、次はドアの作り込みをしたくなる。カーオーディオ沼は、こうやって深くなっていきます。
それでもドアスピーカーが音響的に不利な理由
左右の配置がバラバラです
ホームオーディオなら、左右のスピーカーを自分の前に置いて、距離や角度をできるだけ揃えます。車では、それができません。左右のドアにスピーカーがあるので、運転席から見ると右側は近く、左側は遠くなります。しかも、左右のスピーカーが耳に向いている角度も同じではありません。さらに車内は狭いので、ガラスやダッシュボード、シートなどで音が反射します。直接音だけでなく、こうした反射音も耳に入ってくるため、周波数によって音が強くなったり、逆に弱くなったりします。ホームオーディオと比べると、かなり複雑な環境です。
左右で音が届く時間も違います
右側のスピーカーが近く、左側が遠いなら、当然ながら音が耳に届く時間も変わります。運転席で左右から同じ音を鳴らしても、右側の音が先に届いてしまいます。これでは、ボーカルを中央に定位させるのも簡単ではありません。そこで使うのがタイムアライメントです。近い側のスピーカーを電気的に遅らせることで、左右の音が耳に届くタイミングを合わせます。カーオーディオでタイムアライメントが重要なのは、この左右非対称なレイアウトが大きな理由です。
高音はスピーカーの向きに敏感です
もう一つ厄介なのが高音です。高い周波数ほど指向性が強くなり、スピーカーの正面から外れると音圧が下がりやすくなります。ドアスピーカーは、耳に向かって正面を向けるのが難しい位置です。しかも左右で取り付け角度が違います。そのため、同じスピーカーを左右に付けても、運転席から聞いたときの高音の届き方は同じになりません。ここが、ドアにフルレンジスピーカーを付けて全部の帯域を再生する難しさでもあります。
だからツイーターを別の場所に付けます
そこで便利なのがセパレートスピーカーです。ドアには17cmクラスのミッドバスを置いて、高音を担当するツイーターをダッシュボードやAピラーなどに移します。低音は高音ほど指向性が強くないので、ドアの低い位置でも比較的扱いやすいです。一方、高音を担当するツイーターは、耳に近い高さへ持っていったほうが向きや位置を調整しやすくなります。ツイーターの角度を少し変えるだけでも、音の印象が変わることがあります。「スピーカーを交換しただけなのに、なんか定位が変わった」「ツイーターを少し動かしたら、ボーカルが前に出てきた」こういう変化が普通に起こります。
DSPでさらに追い込めます
そして、現代のカーオーディオで欠かせないのがDSPです。タイムアライメントで左右の到達時間を調整する。イコライザーで周波数特性を整える。クロスオーバーでミッドバスとツイーターの担当する帯域を分ける。こうした調整を組み合わせることで、車内の複雑な音響環境をある程度コントロールできます。もちろん、DSPを使えばドアスピーカーの物理的な問題が全部なくなるわけではありません。それでも、スピーカーの取り付け位置を簡単には変えられない車では、かなり強力な武器になります。
ドアスピーカーは本当に「最悪」なのか?
ここまで見ると、ドアスピーカーが音響的に不利なのは確かです。でも、自分は「だから最悪」とまでは思いません。そもそも車という限られた空間で、17cmクラスの大きなスピーカーを使える場所は、それほど多くありません。ドアなら大口径のミッドバスを置けます。高音はツイーターに任せればいい。左右の時間差はタイムアライメントで調整できる。周波数特性はイコライザーで追い込める。ドアの振動はバッフルやデッドニングで対策できる。つまり、ドアスピーカーには確かに弱点がありますが、その弱点をカーオーディオ全体で補っていけるわけです。ホームオーディオのように理想的な環境を作るのではなく、限られた車内で「どうすれば良い音になるか」を考える。自分は、ここがカーオーディオの面白いところだと思っています。
まとめ
ドアは、スピーカーを取り付ける場所として理想的とはいえません。左右の配置が非対称で、スピーカーまでの距離や角度も揃いません。高音は指向性の影響を受けやすく、狭い車内では反射音による干渉も起こります。それでもドアスピーカーが長く使われているのは、16〜17cmクラスの大きなスピーカーを設置できるという、分かりやすいメリットがあるからです。低域からミッドバスはドアの大口径スピーカーに任せ、高音はツイーターへ分担する。さらにタイムアライメントやイコライザー、クロスオーバーなどを使って車内を調整していく。そう考えると、ドアスピーカーは「音響的に最悪だから仕方なく使っている」というより、車という限られた環境の中で大口径スピーカーを使うための、かなり合理的な方法だと思います。理想的な場所にスピーカーを置けないからこそ、取り付け方や調整で音を追い込んでいく。自分は、こういう不利な条件を工夫しながら良い音に近づけていくところに、カーオーディオの魅力があると思っています。
※ こんなドアスピーカーを使っています。

※ ドアスピーカーを効率よく制振しましょう。

※ セパレートスピーカーのタイムアライメントはどこ基準?

